光、と名の付くアルバム


暗闇に光をみる。
それは様々なアーティストの作品に
共通したテーマとしてみることができます。



Dustin O'Halloran / Lumiere


クラシックの要素がありつつも、ジャンルレスで前衛的とまではいかない。
近年多くなったそういった作品は「モダン・クラシカル」「ポスト・クラシカル」
と呼ばれるようになりました。

もともとFatCat Recordsのモダン・クラシカル部門といえる
130701というレーベルからリリースされていたもので、
ダスティン・オハロランの密かな人気も手伝い早々と完売。
(2017年の当店8周年の特典としてお配りした
「雨と休日の廃盤案内帳」にも掲載させた作品でした。)

ピアノがメインにストリングスが加わるといった編成で、
仄暗い中に時折キラキラとした光を見つけるような、
揺れるカーテンに一瞬光が反射するようなサウンド。
ピアノにストリングスが入ったモダン・クラシカルものとして
個人的には5本の指に入れたいと思っている作品です。



Otto A Totland / Pino


冬は雲が厚く、薄暗い印象を持つ方も多いかと。
この作品はそんな空の重さを感じさせる
冬におすすめの1枚。
作者自身もノルウェーの冬の風景から
インスピレーションを受けこの作品が作られたようです。
ごく少量の限定1stプレス、sonicpiecesのわりには
けっこうプレスされたもののやっぱり売り切れた2ndプレス。
そして待望の再プレス(11月下旬予定)で販売です。



Akira Kosemura / In The Dark Woods


例えが非常に悪く小瀬村氏には申し訳ないのですが、
「胎内めぐり」なのでは、と思う作品。
胎内めぐりは清水寺にもある、暗い通路を歩くことで
胎内にいた頃を疑似体験する仏教的アトラクション(失礼)ですが、
暗闇に安堵を見る、一種逆説的な真理をつくところが
共通すると思っています。
つまりは胎内回帰ということですが、
自身の子どもが生まれた後の小瀬村晶の作風自体にそういった
意識の変化があったのではないかと感じます。

『Tiny Musical』も『grassland』も、
キラキラと輝く光を見た作品。
そこから数年経ち、彼は今また
光を見つめなおしていると感じました。



haruka nakamura PIANO ENSEMBLE / 光


ストレートに『光』とタイトルに付けた
アンサンブル名義での最初で最後のアルバム。
ハルカナカムラは常に光を見続けるアーティスト。
暮れゆく夕方の作品を作ってきた彼の、
これは暗闇から抜け出そうとした(抜け出した)音楽。



Zsofia Boros / En otra parte


ブックレットの冒頭に、
「Everything begins somewhere else」
という一文から始まる
アルゼンチンの詩人ロベルト・フアロスの詩が引用されています。
演奏は繊細の極みですが、広がる世界は無限。
ジャケットは砂漠か砂丘か。
月に照らされる砂模様は微妙な色彩を放っており、
その暗闇の向こうを思わせます。

明けない夜はない。
光なくしては闇はない。
音楽は闇からの道しるべになるべきものと
思っています。
 

somewhere else



Zsofia Boros / En otra parte


ソフィア・ボロス(ゾフィアとかボロシュとかいろいろ表記アリ)
はハンガリー出身の女性ギタリストです。
笑顔がチャーミングな方です。

いきなりECMからデビューとなった本作。
静かな、かつ、本格的な
近現代クラシック・ギター・アルバムを
お探しの方には最高の1枚と言えるでしょう。
店主個人的にも、
ここ最近で聴いたECMの作品の中では
ダントツで好きになっている作品です。

当店のファンの方には絶対に知ってほしい
ブローウェル作曲の「11月のある日」。
この曲が入っているだけでポイント高いです。
試聴じゃわからないかもしれませんが、
「ノスタルジー」とか「メランコリー」とか
琴線に触れそうな言葉をクラシックギターに
置き換えたならこの曲になる…
と言いたいぐらいの1曲です。
もともと映画音楽用に作られた、という点も
その音楽に親しみやすさがある要因です。

ボロスが個性的なのは、
細かな部分をもっとも重要視している
と思わせるギターの音色と
その選曲と言えるでしょう。

若いアーティストらしく、
選曲に余計なこだわりがありません。
前述のブローウェルから、
ラルフ・タウナー、
ヴィセンテ・アミーゴ、
キケ・シネシなど、
ポピュラリティーのある曲と
伝統的なリズムの曲とが
違和感なく並んでいます。

『En otra parte』というタイトルは
somewhere elseという意味。
ここではないどこか、といううつくしい響きの言葉が
日本語にはあります。
想像力を掻き立てされられる言葉。

ギターは時折、強く響く作品ですが、
不思議なことに、心は波立たないのです。
その点を取っても、
特別な作品、特別なギタリスト、と言えるでしょう。
貴方のライブラリーに加われば幸いです。


 

黄昏時から光のほうへ ― PIANO ENSEMBLE所感


2010年のまだ暑いとき。
ハルカナカムラが店に来てくれた。
発売されたばかりの『twilight』のために、
彼が撮った写真をファイルにしたものを
店頭で展示する、
その準備のためだ。

まだ私は、ハルカナカムラ本人のことを
よく知らなかった。
後から思うと、彼はその当時、
ひとつの暗闇から抜け出そうとしていたはずだ。
そしてもちろん、彼のアンサンブルのメンバーたちのことも
よく知らなかった。
ARAKI Shin、内田輝といったミュージシャンは
ライヴやアルバム販売に伴うかたちで
次第に親しくなっていった。

それから7年。
何度も会い、聴き、彼の音楽が変化していく様を
断片的に見続けてきたが、
個人的には「CURTAIN CALL」で
彼の向く方向性のひとつが
美しい建物のように形作られたと感じた。
それはPIANO ENSEMBLEの進化過程の中の
ひとつの出来事だったが、
私自身もスタッフとして参加した
昨年末の早稲田スコットホールでの公演では、
CANTUS、うららといった歌い手の他にも
青木隼人、坂ノ下典正というサポートが居たこともあり、
少し感慨深い気持ちになった。


[ACT.9] 2015年12月25日京都文化博物館
写真:吉村健(TKC)/照明 : chikuni

FOLKLOREでもそうだが、
この写真のように円になって
演奏を囲むのが、
彼らの音楽には合う。
その音楽性を的確に表しているいい写真だ。


haruka nakamura PIANO ENSEMBLE / 光


『光』。
こうやってPIANO ENSEMBLEの最終形が
音盤となってできあがったのは、いちファンとして嬉しい。


haruka nakamura / 音楽のある風景


『音楽のある風景』と『光』を見比べると
何曲か曲順が同じなのがわかる。
これは敢えてそうしたのだろう。
2014年の録音である『音楽のある風景』と、
その2〜3年後の演奏である『光』との
演奏には大きな変化があることが
一聴してわかるはず。
曲目を見ただけで「なんだ同じ曲入ってんじゃん」
と思うのは浅はかだし、
彼らがやろうとしていたことを理解すれば
これこそが正解なのだとわかる。

音そのものはエモーショナルに激しさを増す部分があり
雨と休日のラインナップの中では
音量大き目の部類に入る。
この点は前作『音楽のある風景』よりも増すところだが、
音がうるさい、という意味ではない。
硬度が増している、と感じた。

しかしその対比として、静かな部分は可能な限り静か。
それはこの音源の傍に「観客」が居たからだ。
数十、数百の観客が作り出す「静けさ」は力強い。
声を出すよりも力強い。

ハルカナカムラはその静けさを
強要することなく会場に作り上げている。
それは限られた音楽家のみができることに他ならない。

光があれば闇がある。
動があれば静がある。
その逆も然り。
音を発さなければ静寂は無いし、
静寂を作ってくれる人たちが居るからこそ、
ハルカナカムラとその仲間たちは
力の限り奏でられるのだ。

つまり何よりも、
静寂の部分に気づいてほしいアルバム
ということなのだ。



 

思い出ごと引っ越すのです



AOKI, hayato / Echo/Room Echo



家をうつる。

その、事の大きさを実感できる人は
多いのでしょうか少ないのでしょうか。


音楽家、青木隼人は数年前まで東京・杉並区に住んでいました。
このCDの音源はその杉並の自宅にあった
ピアノを演奏したものがベースとなっています。
ジャケットには窓辺に置かれたアップライトピアノ。
これは彼の自宅で、
写真家の大沼ショージによって撮られた写真です。

青木隼人がその家をうつり、
今になってこの音源を作品にしたのには
理由があるはず。

過去の住処には
悲喜の思い出があるのは当然のこと。

人の記憶は引き出しのようだと言われます。
その中で、思い出という引き出し(カテゴリー)があるとしたら、
そしてそれを音楽として形にしたのなら、
こんな作品なのでしょう。


ちょうど同じ時期に、
部屋を離れる、その思いを音楽にした作品がリリースされています。


Gerald Situmorang / Solitude


インドネシアのジェラルド・シタモラン。
彼にとって、
その部屋はかけがえのないものだったのだと、
その演奏を聴いただけで
わかる気がします。

深く知り合った仲のものと別れる。
そのときの孤独感から、
『Solitude』というタイトルにしたのでしょう。
しかしSolitudeには孤独の絶望感は
強く含まれていません。
独りで生きることの
強かさ楽しさも含まれています。

切なさもありますが、頼もしさもある。
そんな作品かと。
 

今日という日はどんな一日だったことでしょう



CANTUS / オディエ


いにしえの人々の祈りは、かくも純粋にあるものか。
中世の教会音楽。まだ五線紙が無いような時代の音楽も。

教会音楽=宗教音楽と言えど
ここで歌われる曲はどれも聴き易い響きを持ったものばかりで、
馴染みのない、一見近寄りがたいと思われがちなこれらの声楽曲を、
カントゥス(ラテン語で「歌うこと」の意味)は
原曲に沿いながら曲によっては自ら編曲もし、
さらに親しみを持てるように歌ってくれています。
その功績はこれから讃えられるべきことでしょう。

グレゴリオ聖歌やペロタン(ペロティヌス)といった
西洋音楽の歴史の中でもかなり古い部類に入る曲の中に、
阿部海太郎作曲による「Sanctus」が違和感なく溶け込み、
多くのライヴを共にするharuka nakamuraによるリミックスが
彼女らの世界観を象徴するように添えられます。

完全なクリスチャンというわけでも、無宗教的というわけでもない。
キリスト教圏であれば生まれなかったグループだったかもしれません。
そういう意味では日本的であるし、
日本であるからこそ彼女らの
「宗教を超えて、響きの美しさを追求していきたい」
という目標が掲げられるのだと。

CDとしてはこれが2作目になりますが、
1作目はレーベルの色がやや出過ぎている感もあり、
現在のCANTUSの姿を素直に記した『オディエ』こそが
最初に聴かれるべき作品だと思います。


近年活動を共にする機会が多いお二方のコメントも。

「幼い頃から培われた透き通った歌声、 それを発しているのは、これまで人生の様々なことをくぐりぬけてきた女性たちだ。 彼女たちは歌うことに救われ、歌の中で周りと溶け合い、許し合い、生きる喜びを感じてきたのだと思う。彼女たち自身を救ってきた歌の存在に、私たちもまた包まれ、救われる。 (そして、こんなに無垢な白ワンピースが似合う30代女性たちはめったにいません!)」- 坂本美雨

「この響きこそ彼女たちの存在証明であり、 本当の意味でCANTUSのデビューアルバムだと、あの日、教会での録音に立ち会いながら強く感じていました。一人でも多くの人に、この響きが届きますように。」- haruka nakamura


さらに雨と休日では
先着(200枚限定)でポストカードをお付けする
“CANTUS-LUX キャンペーン”も開催中です。
こちら


 

壊れかけのピアノを…


The Boats。
Craig Tattersall とAndrew Hargreavesによる
マンチェスターのデュオ。
2012年頃まではアルバムをリリースしていましたが、
最近は過去作品をLPボックスにして限定リリースする計画があったりなど
小康状態といったところか。

http://oursmallideas.tumblr.com/



The Boats / We Made It For You (2016 Edition)


編集盤などありますが、アルバムは10枚弱ぐらいでしょうか?
The boatsと言うとやはり初期作品、
その中でもこれ、
個人的にはこれしか無い、と言いたいぐらいの作品です。
文字通りの待望…!

the Boatsとしてはどちらかと言うと珍しく
ヴォーカルが一切入っていない点、
ピアノがメインで使われている楽器の数が少ない点、
寝る前に聴きたくなるような
緩やかな曲調で統一感がある点…
などなど傑作の要素に溢れている!

…興奮したのでこのCDを聴いて寝ることにします。

オリジナルのジャケットはこちら。




 

シスター・エマホイ



Emahoy Tsegue-Maryam Guebrou / Ethiopiques, Vol. 21: Ethiopia Song


エマホイ・ツェゲ=マリアム・ゴブルーは
エチオピアの修道女であり、ピアニストであり作曲家。
齢90を超える現在は、エルサレムにあるエチオピア正教会の修道院で
オルガンやピアノ、ヴァイオリンを演奏して暮らしています。

1923年にハイクラスの家庭に生まれ、6歳でスイスへ留学。
そこで最初はヴァイオリンを習いました。
戦時中はイタリア軍の捕虜となるなど波乱の人生を歩みましたが、
師匠であったポーランドのヴァイオリン奏者
アレクサンダー・コントロヴィッツとともにエチオピアへ帰国
(コントロヴィッツは後にエチオピアのモダン音楽の
基礎を築いた人物のひとりとなります)。
25歳(19歳?)で修道女となり、
(Emahoyは修道名、Tsegue-Maryamは洗礼名?
であり元の名はYewebdar Guebrou)、
古くから伝わる教会音楽の研究に従事。
エチオピアで音楽を続けることは文化的にも
インフラ的にも困難が伴いましたが、
やがて彼女は若き研究者や孤児院への支援の為に
自らの作品のレコードを作ることにしました。

1963年にドイツでリリースされた彼女の最初の2枚のLPレコードは、
エチオピア最後の皇帝ハイレ・セラシエ1世や、
彼女の姉妹の援助によって作ることができました。
どれほど売れたかはわからないものの
資金集めとしての目的は果たせたようです。
逆に、その資金集めという目的が無かったら、
彼女の音楽はこうして世に広められることは無かったと思うと
良かったと思わずにはいられません。

ディスコグラフィーについてはライナーノーツによれば、
ドイツで63年に2枚、イスラエルで70年に3作目を制作。
72年には同じくイスラエルでオルガンと歌で
エチオピアの教会音楽を録音したLPを作り、
(このCDには未収録)
96年に1枚CDを作ったと書かれています。

エマホイが作り出す音楽は何とも形容しがたい魅力に溢れています。
彼女自身、クラシック音楽を好むようで、
曲の随所にもクラシック的な響きが見られます。
古典派ロマン派っぽいところも、近代っぽいところもありつつ、
その中に初期カウント・ベイシーやファッツ・ウォーラーなど
アーリー・ジャズの要素を感じたり、
アフリカンらしいブルース的な響きを持たせたり、
それらがエチオピアの伝統的な旋律(ペンタトニック?)を
ベースにした上にブレンドされており、
とにかく一言では言えないくらいの混血無類っぷりが魅力。
先進諸国ほど異文化が流入してこない国ならではの、
さらに言えばストイックな修道院という環境の中で
育まれてきた独自の文化としての形を成していて
いろんな意味で興味深い音楽となっています。

こちらはエマホイが設立した
Emahoy Tsege-Mariam Music Foundationの動画です。
Emahoy Tsege-Mariam Music Foundationは
アフリカで音楽を学ぶ子どもたちのための財団です。



(本文中のバイオグラフィーについては年齢等、
記事によって異なるようですが本CDのライナーノーツを基としました。)
 

内田輝の静かな世界



Akira Uchida / OTOTSURE


パソコンのファンの音すら
うるさいと思ったことがある人なら
彼の音楽の根幹を感じ取ることができるのでは。

内田輝の音楽には
常に静寂が連れ添うよう。


調律師であり、自らスタジオも持つ内田輝は、
近年ではharuka nakamura PIANO ENSEMBLEの
メンバーとして活動していますので、
そこで彼を知った方も多いかと思います。
アンサンブルで見られるソプラノ・サックスの演奏だけでなく、
ピアノ、そしてクラヴィコードなどを演奏します。

クラヴィコードとは14世紀に考えだされた楽器で、
チェンバロとはまた違った構造で、
現代のピアノの原型となる楽器のひとつです。
J.S.バッハの息子、C.P.E.バッハが好み、
多くの作品を残していたりします。

内田輝はそのクラヴィコードを持ち運び
(持ち運べる大きさ、ですがもちろん調律も狂いますので
演奏先で再度調律しなおさなくてはなりません。)
各地で演奏もしています。
先日、出張販売を開催した高崎「matka」さんでの
ライヴ演奏でも披露されました。

※写真は坂ノ下氏のtwitterより拝借

非常に音が小さい楽器で録音も難しいため
CDとしてもなかなか良いものがありません。
いつかクラヴィコードだけでのアルバムを
作って欲しいところ…とは願うものの、
そうではない生で聴くことがもっとも相応しいのかも。

さて、この『OTOTSURE』は、
ギャラリー/ショップ「ARABON」のために
制作されたものです。
ARABON

ARABONは京都の山奥にある廃校の敷地内にあり、
その学校の体育館に忘れ去られていた
ピアノを使って録音されました。
広い体育館の中に響く古いピアノの音色は
特別なものがあったことでしょう。
耳を澄ませて聴くと、
建物と共鳴していることがわかります。
2014年の冬に録音された演奏は、
冬の空気と同じく
ピンと張りつめたような程よい緊張が伴い、
その音楽からは、
静寂と言う見えない敵と戦うような
気概すら感じます。



『OTOTSURE』、好評をいただけたら
彼の他の作品も取扱いしようと考えております。


≪2016年12月追記≫

Uchida Akiraの他作品の取り扱いを開始しました。

彼の作風がもっとも顕著に現れているのが
『untitled』と名付けられた2タイトル。


Akira Uchida / untitled 1



Akira Uchida / untitled 2


福岡にある杉工場と言う
家具などの木製製品を作る会社の倉庫にて録音されたものです。
倉庫に持ち込んだアップライトピアノによる『untitled 1』。
同じくクラヴィコードによる『untitled 2』。

彼のクラヴィコードのCDは今のところこの『untitled 2』だけです。
クラヴィコードの音色は非常に繊細なため、
実際の音色と録音された音色は少し違ってしまいますが、
クラヴィコードのCDそのものも少ないため
(さらに録音もどれもイマイチのため)
このCDで楽しんでいただけたらと思います。
 

アル・ヴィオラという名ギタリスト



Al Viola / Solo Guitar


孤独な1日の終わり、あなたをそっと包み込むブランケットのような音楽。
―― 大場俊輔(JUHA)

小さな部屋で一人、きっと夜に、
ただ一本の普通のギターで録音された隙間だらけの音楽。
それはどんな音楽のジャンルも思い出させる事のない、
ただただ純粋に音楽的なだけの音楽。
そこに有るのはただ、和音の美しさ、リズムの楽しさ、フレーズの可愛らしさそれだけ。
全く媚びる事のない純粋な美。
だからこれを選び取る人は自分の意思でこれを選ぶ。
まるで野に咲く値段の付いていない花を美しいと思い持ち帰るように。
自分で選んだものは大切なものになる。
―― 高橋ピエール


今回、雨と休日店主がCD化のリクエストと
ライナーノーツを担当したアル・ヴィオラという
ギタリストの作品、『ソロ・ギター』。

これは一見すると非常に地味な作品なのですが、
実は音楽的にも語るべき点が多い隠れた傑作です。

『Solo Guitar』に録音された音楽は
他のギター・ソロ作品とは少し異なった立ち位置に存在します。
もともと裏方的な音楽家気質があったのでしょう、
初めてのリーダー作ということで張り切り過ぎることなく、
高橋ピエールさんからいただいた冒頭のコメントと同じく、
程よくリラックスして自分のやりたい音楽をやりきっているように聴こえます。
それは簡単なようで実はとても難しいことです。
当時音楽を録音することは商業的な制約が大きく、
今よりも自由ではありませんでした。
(売れないと、お金が無いと、録音すらできない)
50年代にギターのソロ作品を録音することは
非常に珍しいはず。
これはリリース元のMODEが、
マイナーなレーベルだったからこそできたことでしょう。

古いスタンダード曲の解釈は非常にモダンな響きがあり、
楽器がクラシック・ギターだという点も
この作品を特別なものにしているように感じさせます。
ジャズの範疇に囚われることなく、
洒脱なグッド・タイム・ミュージックとして
扱うべきなのではと思う次第。

彼の経歴についてはライナーに詳しく書きましたが、
特筆すべきなのは以下の2点とその膨大な録音参加作品の数。

フランク・シナトラのサポートギタリストとして
25年の長きに渡って起用され続けたこと。
ギター伴奏の白人女性ジャズ・ヴォーカル作品の最高峰と言っていい
ジュリー・ロンドンの『Lonely Girl』で演奏。
サポートしたアーティストはジューン・クリスティ、
リナ・ホーン、メル・トーメといったジャズの大御所から、
ナタリー・コール、マーヴィン・ゲイ、
ニール・ダイアモンド、リンダ・ロンシュタット、
果てはフランク・ザッパといった名前まで。
映画『ゴッドファーザー』(もちろんあの有名なテーマ曲も)や
『ウエスト・サイド物語』のサントラにマンドリン奏者として参加したり、
ビーチ・ボーイズの『クリスマス・アルバム』でも
エレクトリック・ギターを弾いていたというクレジットがあります。

どうでしょう。
その器用さ柔軟さに驚くとともに、
より一層アル・ヴィオラというギタリストへの
親しみが湧いてくるのではないでしょうか。

この作品を知ったのは
西荻窪にあるJUHAで流れていたのを聴いたとき。
そんな縁もあって、今回JUHAの大場マスターにお願いして
帯の一文を書いてもらいました。
それが冒頭の文章。
東京ではJUHAやロンパーチッチ、
大阪ならチッポグラフィアやLONG WALK COFFEEといった
若いマスターによる新しいスタイルのジャズ喫茶が
生まれていますが、
そんなJUHAで流れているという点が
この作品の性質を表わしているように感じます。



 

麗しのジョニ



Joni James / Among My Souvenirs + 100 Strings & Joni in Hollywood


なにを美とするか。
なにを求めるか。
それによって趣味趣向が変わってくるはず。
特にこういった古い歌を聴く時は。

ジョニ・ジェイムスはジャズとポピュラー音楽の
中間にいるようなシンガー。
白人女性のシンガーということもあり、
当時のアメリカでは「Sweetheart Of Song(歌の恋人)」
と呼ばれるほど。
そのため歌うレパートリーも、
いわゆるジャズのスタンダードだけに限らず
一般的な聴衆の好みに合わせた
幅広い選曲に。

ジョニ・ジェイムスの魅力は
簡単に言い表せないけれど、
高レベルの中庸と言うか、
特別な企画はないけれど
文句なくハイクラスと言えるホテルみたいな存在。

このCDは
『Among My Souvenirs』
『100 Strings & Joni in Hollywood』
というふたつのアルバムを2 in 1したもの。
特に前者はこのCDにも使われている
ジャケットの可憐さを含め、
シェルビー・フリント『The Quiet Girl』
ペギー・リー『貝がら』を好きな方に
特にお薦めしたい逸品です。
 
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